File.4-10 「生きてるだけで丸儲け」私がみんなに伝えたいこと

サンパギータ 日本のフィリピン女性たち(奈良雅美)

サンパギータ 日本のフィリピン女性たち(奈良雅美)

 

<サンパギータFile.4>愛さんの場合

「生きてるだけで丸儲け」私がみんなに伝えたいこと

 

生きている! 息ができる! それだけでなんと幸せなこと。
地震を経験した私は命さえあればそれでいいと思いました。

 

日本で暮らす外国人に私が役立てることは、言葉に関しては私がわかっている範囲で、どこの国の人でも助けたいなと思っています。自分が成功しているか成功していないかどうかではなく、幸せについて考えています。そして幸せをシェアしたい。
自分は幸せだと思うかもしれないし、幸せが足りないと思うかもしれない。幸せってどこまでつかめるのかわからない、自分がもらった幸せに満足しないときもある。私がフィリピンコミュニティを作るときに、自分が役立てられたら幸せだと思っていました。コミュニティができると、いろんな人が入ってくると、自分はもっともっとと思ってしまう。もっとほしいと思ってしまう。たとえば私が2万円欲しいと思ったとき、2万円が手に入ってしまうと、もっとほしい、じゃあ20万円もらったときに、20万円じゃ足りない、と思ってしまう。
ここに来るお客さん、フィリピン人だけじゃなく、いろんな国の人に対しても。例えば、仕事がほしいと言われれば1つ仕事を紹介する。するともう一つ仕事がしたいと求められると、どこまですれば満足だと思うだろうと首を傾げてしまいます。

薄紫の空と鱗雲

私は、幸せとは納得すること、今あることを納得することと思っています。夢を叶えることも、夢を捕まえるところまでで納得する。もっともっととなると、なかなか幸せにはなれない。幸せとは納得することだということを人に伝えたい。

 

もう一つ大事なのは「生きてるだけで丸儲け」、これは明石家さんまさんがテレビで言っていた言葉ですが、地震のときに私はこれを乗り越えられたら、私はなにもいらない。生きているだけでいい、そう思ったのです。息ができるだけで、それだけでいい。話をする、歩いてる、ハーイって手を振る、それが当たり前だとみんな思っているかもしれませんが、話ができない、歩けない、手を振ることもできない人もいます。
だからそこで生きているだけで丸儲け。あなたの大切なことはなんですか? あなたがここで生きている、そのことが大切だよということを伝えたくてこの仕事(先生の仕事)を選んだんです。ほかのことはすべて飾り。納得することが大事やと思う。

 

私がこのお店を開いたとき、ほんの小さなお店を開くと、次第にレストランにしたい、テーブルを置きたいなど、次々と考えたんです。私は納得していなかったんだなと思います。私は英語の教室を持っている、それでもこれをしたい、と思ってしまったんです。
私は英語を教え、学校でサポートして、それだけでも幸せ。納得する。買いたいけれど、今は買えない、それで納得することが幸せにつながると思っています。

 

クローバー(群生)

 

▶︎File.4-11 私にできる手のひらサイズの支援 へ続く


<話を聞いてまとめた人>奈良雅美プロフィール写真
奈良雅美(なら・まさみ)
特定非営利活動法人アジア女性自立プロジェクト代表理事。関西学院大学非常勤講師。ときどきジャズシンガー。
小学生のころから「女の子/男の子らしさ」の社会的規範に違和感があり、先生や周りの大人に反発してきた。10代半ばのころ、男女雇用機会均等法が成立するなど、女性の人権問題について社会的に議論されるようになっていたが、自身としてはフェミニズムやジェンダー問題については敢えて顔を背けていた。高校時代に国際協力に関心をもち国際関係論の勉強を始め、神戸大学大学院で、環境、文化、人権の問題に取り組む中で、再びジェンダーについて考えるようになった。
 大学院修了後、2004年より特定非営利活動法人アジア女性自立プロジェクトの活動に参加。途上国の女性の就業支援、日本国内の外国人女性支援などに取り組む中で、日本に住むフィリピン女性たちに出会う。社会一般の彼女たちに対する一様なイメージと違い、日々の生活の中で悩んだり喜んだりと、それぞれ多様な「ライフ」を生きていると感じ、彼女たちの語りを聴き、残したいと思うようになる。移住女性や途上国の女性の人権の問題について、より多くの人に知って欲しいと考え、現在、ジェンダー問題、外国人や女性の人権などをテーマに全国で講演も行っている。