File.5-12 家族とは

サンパギータ 日本のフィリピン女性たち(奈良雅美)

サンパギータ 日本のフィリピン女性たち(奈良雅美)

 

<サンパギータFile.5>コラゾンさんの場合

家族とは

 

フィリピンでは家族はとても大事な存在。家族のために生きている。それは普通のこと。
何があっても家族がいたら乗り越えられる、帰るところがある。だからあまり自殺はない。
神様の次は家族。家族がいないなんて考えられない。
そうでもない考え方もあると思うけれど。でもあまりそういう人に出会ったことはない。
喧嘩しても仲が悪くなっても、最終的には家族に戻る。

鳥の親子

 

母が病気になって亡くなったときは、ほんとうにいろいろあったけれど、周りの人が助けてくれました。特に叔母の家族はとても助けてくれた。本当に優しくしてくれて感謝しかないです。
その叔母も3年前に亡くなりました。母は弟3人、妹5人の9人きょうだいだけれど、今は3人しか残っていない。この間フィリピンに帰国した時に会いにいきました。
家族って、アドバンテージもあるけれど、ディスアドバンテージもある。例えば叔母の家族は、私たちを引き取ると私たちにはプラスだけど自分達家族には負担になる。フィリピンではそれは当たり前。文化っていうか。結局は家族の愛。
叔父さんは叔母さんのことを愛しているから、引き取りたいっていう叔母さんの意思を尊重した。やっぱり愛ですよね。やさしさ。叔母さんも私のお母さんに対して愛があった。別に責任感じゃない。愛があるから。
フィリピン人は愛情深い。誰に対しても。

 

日本の家族の考えはちょっと違うと思う。人に迷惑をかけないという考え方が基本にある。親に迷惑かけない、子どもに迷惑かけない。頼らない。それもいいかなと思う。どっちもね。
よく聞くのは、子どもが大きくなったら、親に冷たくなったりするっていうの。そこは寂しいなと思う。よくお客さんに言われる。「親を大事にしてるね。あなたのお父さんが羨ましいわ」って。「お父さんはなにしてるの」って聞かれてずっと仕事してないといったら「いいなあ」って。でも私は正直に言う。私にはマイナスですよって。そういう部分は私に負担。
でも愛があるから。父と母のおかげで私は存在するから。そうやって私は育てられた。

 

「親を大事に」というカトリックの考え方。親を大事にしない人は幸せになれないって小さいときから言われてきたので、なにがあっても親は親。悪い親でも。
母と毎週日曜日に教会に行っていました。母は真面目でした。私は子どもだったので嫌やと言いながらも、教会に連れて行かれました。そのころ住んでいた家の大家さんは私の名付け親なので、仲のいい同級生と一緒に、毎週土曜日にはその家にあるマリア像の前にお祈りに行っていました。3時にはおやつも出してもらっていたので、それも楽しみでした。昔はお祈りも真面目にやっていましたね。
でも日本にきて崩れてしまった。夜の仕事しているからできなくなってしまったんです。
でも今でも寝る前には必ずろうそくをつけて、マリア様とキリスト像にお祈りする。1日ありがとうと。毎週は行けないけれど、時々教会に行く。行かなければと思ったときには必ず行く。あとクリスマスと正月、誕生日も。

青空と教会

 

フィリピンは世界で一番、宗教と政治に対して情熱がある国らしいです。そういうドキュメンタリーも見たことがあります。
自分でやらないといけないことは自分で頑張らないといけない。ポンとお金は降ってこないと考えている。
その根っこには深い信仰があると思います。

 

▶︎File.5-13 一人で生きる気楽さと寂しさ へ続く


<話を聞いてまとめた人>奈良雅美プロフィール写真
奈良雅美(なら・まさみ)
特定非営利活動法人アジア女性自立プロジェクト代表理事。関西学院大学非常勤講師。ときどきジャズシンガー。
小学生のころから「女の子/男の子らしさ」の社会的規範に違和感があり、先生や周りの大人に反発してきた。10代半ばのころ、男女雇用機会均等法が成立するなど、女性の人権問題について社会的に議論されるようになっていたが、自身としてはフェミニズムやジェンダー問題については敢えて顔を背けていた。高校時代に国際協力に関心をもち国際関係論の勉強を始め、神戸大学大学院で、環境、文化、人権の問題に取り組む中で、再びジェンダーについて考えるようになった。
 大学院修了後、2004年より特定非営利活動法人アジア女性自立プロジェクトの活動に参加。途上国の女性の就業支援、日本国内の外国人女性支援などに取り組む中で、日本に住むフィリピン女性たちに出会う。社会一般の彼女たちに対する一様なイメージと違い、日々の生活の中で悩んだり喜んだりと、それぞれ多様な「ライフ」を生きていると感じ、彼女たちの語りを聴き、残したいと思うようになる。移住女性や途上国の女性の人権の問題について、より多くの人に知って欲しいと考え、現在、ジェンダー問題、外国人や女性の人権などをテーマに全国で講演も行っている。