File.4-11 私にできる手のひらサイズの支援

サンパギータ 日本のフィリピン女性たち(奈良雅美)

サンパギータ 日本のフィリピン女性たち(奈良雅美)

 

<サンパギータFile.4>愛さんの場合

私にできる手のひらサイズの支援

 

フィリピンを離れるとき、やり残したことがありました。ストリートチルドレンのこと。
家も親もいない子ども、親がホームレスの子ども、彼らは学校にも行けず、日々の食べるものも乏しい。
なんとかしたい、そう思いながらも私は日本に来てしまいました。

 

フィリピンのストリートチルドレンの支援を妹と8年間しています。なぜ始めたかというと、私の通っていた大学の近くに靴も履かず、服も汚れてボロボロの小さな子どもたちがたくさんいたのです。私のわずかなお小遣いの中から、水や小さなクッキーを買って分けたことがありました。すると子どもたちがすごい笑顔を見せてくれました。私は家に帰るとたくさんご飯を食べることができる。あの子たちは食べられないと思うと、何かしたいと思いました。
私は教会のNPOで活動をしていたのですが、その話をするとNPOは予算がなく、子どもたちを助けるとキリがない、いっぱいそんな子どもはいるから、と言われてしまいました。自分がやりたかったら、自分でやって、NPOはできないからと。
私はそのときは力がないし、他に自分がしたいこともあったので、そのときは断念しました。

 

結婚して日本にきて、すべて自分のしたいことができていると思ったとき、もう一つやりたかったことを始めることにしました。それがストリートチルドレンの支援でした。大学のときに出会った子じゃないかもしれないけれど、うろうろしている子どものために何かしようと思ったのです。
最初は個人で、娘の着なくなった服とカップヌードルや缶詰をたくさん買って箱に詰めて送ったのです。よくわからなかったけれどなんでもいい、いろんなものを詰めました。船便で12月初めの頃に送って、クリスマスに間に合うようにしました。12月は私も忙しいので帰国できないため、妹に頼んで近くのストリートチルドレンに配ってもらいました。何人かのストリートチルドレンを公園に呼んで、お菓子などを配るから公園に何時に来てと約束するんです。そうするとたくさんくるそうです。お金を妹に託して、ジョリビー(Jollibee)というフィリピンの有名なファストフードショップでハンバーガーを100個ぐらい買ってもらって配ることもあります。あとはジュースとか。みんなに食べさせます。
12月はクリスマスだから、この日だけでも子どもたちに幸せな気持ちになってほしい。フィリピンのクリスマスはとても楽しい月なので、せめてもの思いです。

プレゼント

 

私は無理なく、ここの生徒さんとか、国際交流プラザでもらったりしたものを箱にいれて送っています。でも私自身は個人でやっていることだから、チラシを配ったりして送るものを募ったりしない。自分個人がやりたかっただけだから。
だれかが一緒にやるよと言ってくれたらぜんぜんOKだけど、だれかと一緒にやるんだったら予算いくら、とかどこにいくら必要とか計算しなければいけないでしょ。そんな時間ないし、買い物も自分の空いた時間で自由にやっている。できればお金をもらいたくない。いるものをもらうのはOKだけど、現金はもらいたくない。自分でものを買って、これを入れてというのはOK。
今も12月に向けて集めてるんです。集まる量が増えたので、今は年に2回送っています。フィリピンで2年前に台風があって、送ることができなかったことがあるので、遅れて送ったことがあります。それから年2回になっています。
何人か、学校で勉強できない子どももいます。そんな子どもの筆記用具も送ったりもします。めちゃくちゃ喜んでいて。7歳になっても、字が書けない子どももいて。そんな子どもが少しでも勉強できるように。日本の100円ショップで文具を購入して送っています。
人を集めて、グループにして助成金をもらうっていうのもできるけれど、報告書にまとめたりというのはできないです。自分には他にメインの仕事があるので時間的には余裕がないから。だから個人でやる。もしだれかが私がやりますと、ストリートチルドレンを支援しますと言ってくれるなら、私は紹介するので、やってもらっていい。

 

細く長く、プレッシャーない状況で続けたい。ここもそうだけど趣味みたいになっている。人にあれやって、これやってというのは、大変だから。だれかと一緒にやると、情報共有やいろいろ配慮が必要だからやりたくないのです。お店も何人かから、一緒にやりたいと申し出がありましたが、断りました。たとえば、ピーナッツバターが売り切れてないから、仕入れてほしいと言われても、その都度こまめに対応することができません。自分のタイミングで仕入れをしたいと考えています。
ストリートチルドレンは妹と2人でやっていることで、昔からやりたかったことだからプレッシャーがないように続けたい。

 

これからの夢というか、いつか手掛けたいと思っていることがあります。
今フィリピンから技能実習生が大勢来ていますが、ここを会社にして、できたら大変な実習生たちを助けたい。日本に来たい人たちがたくさんいますが、日本の仕事につなげる仕事ができれば。
それは遠い将来に、という感じです。

海

 

<サンパギータFile.4> 愛さんの場合 了


<話を聞いてまとめた人>奈良雅美プロフィール写真
奈良雅美(なら・まさみ)
特定非営利活動法人アジア女性自立プロジェクト代表理事。関西学院大学非常勤講師。ときどきジャズシンガー。
小学生のころから「女の子/男の子らしさ」の社会的規範に違和感があり、先生や周りの大人に反発してきた。10代半ばのころ、男女雇用機会均等法が成立するなど、女性の人権問題について社会的に議論されるようになっていたが、自身としてはフェミニズムやジェンダー問題については敢えて顔を背けていた。高校時代に国際協力に関心をもち国際関係論の勉強を始め、神戸大学大学院で、環境、文化、人権の問題に取り組む中で、再びジェンダーについて考えるようになった。
 大学院修了後、2004年より特定非営利活動法人アジア女性自立プロジェクトの活動に参加。途上国の女性の就業支援、日本国内の外国人女性支援などに取り組む中で、日本に住むフィリピン女性たちに出会う。社会一般の彼女たちに対する一様なイメージと違い、日々の生活の中で悩んだり喜んだりと、それぞれ多様な「ライフ」を生きていると感じ、彼女たちの語りを聴き、残したいと思うようになる。移住女性や途上国の女性の人権の問題について、より多くの人に知って欲しいと考え、現在、ジェンダー問題、外国人や女性の人権などをテーマに全国で講演も行っている。