<サンパギータFile.1> けいちゃんの場合
私の日本の家族(前回のつづき)
●夫と二人の息子
うちは、家族の仲がとてもいいです。二人の息子は、それぞれの道を自分で選び歩んでいます。
あまり私は子どもに口出ししないのですが、夫はどちらかというと口うるさいほうです。
普通は母親が言うようなことも夫が言います。
彼は「ちゃんとやっているのか」などと二人に声を掛けますが、私はあまり口を出しません。
父母ともに口うるさいと子どもは息苦しいので、これでちょうどいいのではと思っています。
長男は23歳、私たち夫婦と一緒に暮らしています。
彼は公認会計士の資格取得を目指しているのですが、大学の講義は意味がない、独学で合格すると言って、兵庫県立大学2年生の時に退学してしまいました。
せっかく頑張って合格したのにと残念に思いましたが、彼の志を応援しています。
今は塾講師のアルバイトをしながら、熱心に試験勉強に取り組んでいます。
次男は高校卒業後、神戸の専門学校で1年間声優の勉強をしてから東京で活動するために一人暮らしを始めました。
声優の勉強の傍ら、アルバイトで生計をたてて、オーディションに挑戦しているようです。
大変難しい世界のようですが、自分で決めた道、独立して生きていく覚悟を感じます。
親として温かく見守り励ましていこうと思っています。
息子たちには、幼い頃は英語で話しかけるようにしていました。
私は日本語を勉強する一方で、息子たちには英語を話せるようになってほしいと願っていました。
でもこちらの思うようにはいきません。
長男は中学校に上がったとき、「日本語だけでいい」といって、全然使わなくなりました。
夫の母親は無理に教えなくても勝手に覚えるだろうから気にする必要はないと言いましたが、私は、彼らがフィリピンへ行ったときに、私の両親と話が通じなかったらかわいそうだと思っていました。
しかしそれは杞憂でした。
フィリピンでは、なんとか英語が通じ、息子たちは子ども同士でいつのまにか楽しそうに遊んでいました。
中学校で英語への興味を失ったかのように見えましたが、長男は今、英語に目覚めています。
公認会計士試験の勉強をしながら、英語を学んでいるようです。
以前はフィリピン以外の外国に興味がなかったそうですが、最近はもっと英語を勉強したい、海外で活動したいと夢をもっています。
小さいころにもっと英語を勉強しておけばよかったのにと冷やかしたりしますが、英語に取り組んでくれてうれしいです。
近頃、英検準一級を受験したようで、難しかったとこぼしていましたが、彼の意欲は高く、最近は家では私と英語でしか話しません。
結婚するときに急ごしらえで覚えた英会話レベルの夫は、私と長男の会話を聞いてもちんぷんかんぷんで「お前たちは何を話しているんだい」と首を傾げていますが、そんな様子も私にとっては微笑ましい家族のシーンです。
奈良雅美(なら・まさみ)
小学生のころから「女の子/男の子らしさ」の社会的規範に違和感があり、先生や周りの大人に反発してきた。10代半ばのころ、男女雇用機会均等法が成立するなど、女性の人権問題について社会的に議論されるようになっていたが、自身としてはフェミニズムやジェンダー問題については敢えて顔を背けていた。高校時代に国際協力に関心をもち国際関係論の勉強を始め、神戸大学大学院で、環境、文化、人権の問題に取り組む中で、再びジェンダーについて考えるようになった。
大学院修了後、2004年より特定非営利活動法人アジア女性自立プロジェクトの活動に参加。途上国の女性の就業支援、日本国内の外国人女性支援などに取り組む中で、日本に住むフィリピン女性たちに出会う。社会一般の彼女たちに対する一様なイメージと違い、日々の生活の中で悩んだり喜んだりと、それぞれ多様な「ライフ」を生きていると感じ、彼女たちの語りを聴き、残したいと思うようになる。移住女性や途上国の女性の人権の問題について、より多くの人に知って欲しいと考え、現在、ジェンダー問題、外国人や女性の人権などをテーマに全国で講演も行っている。