第20話 けいちゃん「新しいステージへ」1

サンパギータ 日本のフィリピン女性たち(奈良雅美)

サンパギータ 日本のフィリピン女性たち(奈良雅美)

 

<サンパギータFile.1> けいちゃんの場合

新しいステージへ

 

今? すごくやりがいを感じています。
一生家族を支えるために働く、結婚しないと決意したあのころには、想像もしていなかった状況に今はいます。
縁あって日本人の夫と出会って日本で暮らし始め、仕事につき日本語を学ぶ中で、自分の居場所を社会で見つけて、私の人生は大きく変わりました。

 

●マサヤンタハナンの活動

これからは神戸国際コミュニティセンターとNGO神戸外国人救援ネットでの通訳の仕事を続けながら、マサヤンタハナンの活動をメインにしていこうと思います。
そしてメンバーをもうちょっとひっぱっていこうと思っています。

 

2020年7月に設立したマサヤンタハナンは、日本語教室や就労支援活動、コミュニティの交流活動など活動の幅を広げながら、少しずつメンバーが増えています。
2021年の秋には一泊二日のバスツアーで京都に行く予定なのですが、30人も申込がありました。
参加者はマサヤンタハナンに、日本語やパソコン、介護の基礎勉強のクラスに来ている人たちです。
こんなに大勢集まるようになってとても嬉しいです。

 

少し前は、教室に参加したりしなかったりという人もいましたが、だんだんと参加者みなさん熱心に学ぶようになってきています。
参加する女性は、20代から50代くらい。子どもが大きくなったので、今度は自分が勉強したいと思っている人もいますし、子育てしながら来ている人もいます。
子ども向けにはタガログ語教室があります。

 

マサヤンタハナンに参加する人たちの中に、自分の力を再発見する人もいます。
活動を通じて、自分にもできることがあるのだと気づくのです。
初期のころからのメンバーには、団体の役員としての役割を担ってもらっています。
これまではできなかったかもしれないけれど、今はこんなにできるのだという自信をもてていると感じます。

 

例えばJさん。
彼女は教室の担当になっています。休む人をチェックしたり、教室のコーディネートをしたりする役割です。
次回は先生が何人来られるかということを確認し、配布物のプリントの準備をします。
以前、彼女は印刷機を使うことができませんでした。
また、参加者と関わることもありませんでしたが、今は連絡担当としてがんばっています。
最近、Jさんはちょっと自信がついた感じがします。

話す

教室が始まる前に、参加者に声をかけることも何人かに交代でやってもらうようにしました。
みんな最初は恥ずかしがっていましたが、恥ずかしがっていたらこんな活動できないよと励まし、手本を見せるうちにそれぞれが自分でできるようになりました。
マサヤンタハナンへの参加を呼びかけることもそれぞれでやっているようです。
どんな人もやればできると感じています。

 

一人でなんでも引き受けるのではなく、みんなで役割を共有しながら活動したらよいと言ってくれたのは、外国人支援団体の元代表Mさんでした。
役割を与えても、みんな最初はできませんが、手伝い、教えていくうちにできるようになります。
任された役割を果たす中で、成長していく姿をみるのはとても嬉しい。
でも、まだ団体を運営していくための力が私には足りないから、勉強しないといけないことがいっぱいあります。

 

たとえばビジネスメールもそうです。
どんな言葉を使えばいいのか戸惑うことがあります。
ボランティアグループなど非営利団体は、財団などから助成金を受けて活動するのが一般的で、マサヤンタハナンも例外ではありません。
助成をしてくださっている団体からの連絡が来たときなどは特に、自分にはまだビジネス用語、敬語などの知識がないので失礼なことを書いてしまわないかと心配になります。
なので、まだ日本人ボランティアに頼ることもありますが、彼らからは私が頑張らないといけないと言われます。
言い訳になるかもしれませんが、私以外の家族が男ばかり3人のせいもあってか、私の覚えた日本語がどうも男言葉なのです。
しかも夫から関西弁を覚えなさいとしつこく言われたため「おとん」「おかん」とか「だからゆったやろ」など、夫と話していると口からつい出てきますが、こんな言い回しは仕事のメールでは使えません。
シーンごとでの日本語の使い分けには、かなり苦労しています。

 

また、自分の思っていることを伝えようと思ったら、人前で話せるようにならないとだめだと思いますが、私は人前で話すのが本当に苦手。
緊張して、頭が真っ白になって、なにも出てこなくなります。
こればかりは経験を積んでもなかなか難しい。
自分にとっての壁です。代わりに誰かに喋ってほしいくらいです。

 

今、マサヤンタハナンを支える次の世代を育てようとしています。
Vさんは若く、彼女の抱えている問題もまだ解決していないのですが、力のある人だと思っています。
彼女のような人たちを育てていきたい。
彼女たちには、フィリピン人の支えにも、日本人の支えにもなってほしいなと思います。

空と鳥

日本は人口も不足しているし、労働者も不足しています。
最近は外国から労働者を招いていますが、彼らは日本に来てから日本語を覚えないといけないし、
文化とか法律とか、高い壁を超えないといけません。

 

だから日本政府は、すでに日本に住んでいる外国の人たちにもっと日本語を勉強できるような環境を与えてくれたら、と思います。
日本に慣れているし、法律もある程度わかっているし、文化も理解できるから、その人たちに日本語教育をしっかりすれば、いろいろな場面で活躍できるかもしれません。
他の外国人に教えてあげることもできると思います。
日本人が教えるよりも、異文化間の事情や背景のわかっている外国人が教えてサポートするほうがよいのではと思います。

 

▶︎第21話 けいちゃん「新しいステージへ」2 へ続く


<話を聞いてまとめた人>奈良雅美プロフィール写真
奈良雅美(なら・まさみ)
特定非営利活動法人アジア女性自立プロジェクト代表理事。関西学院大学非常勤講師。ときどきジャズシンガー。
小学生のころから「女の子/男の子らしさ」の社会的規範に違和感があり、先生や周りの大人に反発してきた。10代半ばのころ、男女雇用機会均等法が成立するなど、女性の人権問題について社会的に議論されるようになっていたが、自身としてはフェミニズムやジェンダー問題については敢えて顔を背けていた。高校時代に国際協力に関心をもち国際関係論の勉強を始め、神戸大学大学院で、環境、文化、人権の問題に取り組む中で、再びジェンダーについて考えるようになった。
 大学院修了後、2004年より特定非営利活動法人アジア女性自立プロジェクトの活動に参加。途上国の女性の就業支援、日本国内の外国人女性支援などに取り組む中で、日本に住むフィリピン女性たちに出会う。社会一般の彼女たちに対する一様なイメージと違い、日々の生活の中で悩んだり喜んだりと、それぞれ多様な「ライフ」を生きていると感じ、彼女たちの語りを聴き、残したいと思うようになる。移住女性や途上国の女性の人権の問題について、より多くの人に知って欲しいと考え、現在、ジェンダー問題、外国人や女性の人権などをテーマに全国で講演も行っている。