File.2-7 「愛している」との出会い

サンパギータ 日本のフィリピン女性たち(奈良雅美)

サンパギータ 日本のフィリピン女性たち(奈良雅美)

 

<サンパギータFile.2>マユミさんの場合

「愛している」との出会い

 

たまたまです。それは運命と言えるかもしれない。
一人になって半年くらいあとに恋に落ちました。そのとき、あっと思ったんです。自分の気持ちに驚きました。こういう感情は初めてでした。
初めて、愛しているとはこういうことなんだと気づきました。

 

靴工場の事務所の社長はいつも私の家(ジョセフィーヌ姉さんの家)から仕事場まで送り迎えしてくれるのですが、彼と車中で話をするのがとても楽しいと感じるようになりました。
私が「ガイジン」だから日本を知らないだろうと、社長はあちこち連れていってくれました。社長のお母さんも一緒に、家族ぐるみで遊びに連れていってくれたのです。コンサートに行ったりもしましたね。家族の一員に迎えられたみたいで、嬉しかったです。二人でぜんざいを食べに行ったこともあります。あるときにはお母さんに促されて、二人で大阪のお地蔵さんへ恋愛成就のお参りに行ったりもしました。

車内

 

ある瞬間、彼が好きだと思ったのです。
なぜそれがわかったかというと、彼が車で自宅まで送ってくれ、車を降りてドアを閉めた瞬間、とても寂しくなって涙が溢れたのです。理由は分かりませんでしたが、私は寂しさが込み上げてきました。家に入ると姉に「なんて顔をしているの」と言われました。
この気持ちをどうしたらよいのだろうと、すごく悩みました。電話しようかな。さっき別れたところなのに、もう話をしたくなりました。
電話をすると、ジョセフィーヌ姉さんの子どもにあげるおもちゃを渡すよ、とか酒蔵が近くにあるから連れていくよなどと優しい言葉をかけてくれます。
私はいつのまにか好きになってしまいました。だけどフィリピーナは自分から告白するものじゃないのね。だから私は自分からは彼に好きとは言いません。
彼にマイクとはどうなっているのと聞かれたので、別れたというと、驚いていました。なぜと聞かれました。

「色々あって、理由は一つじゃない」

「じゃあ結婚はしないの?」

「日本で仕事をしようと思う」

いつの間にか彼と付き合うことになりました。
パパ(彼)と一緒にいると落ちつくと思いました。安定した気持ちになるんです。彼はそのとき49歳、私より13歳上でした。彼は私のことを「夏川りみ」によく似ていると言っていました。
まさか結婚するとは思いませんでしたが、私は彼と離れたくないと思っていました。22年間付き合ったマイクとは、全然違う感覚でした。マイクとはLOVEじゃなかったんです。幼なじみで、気心が知れている関係だったけれど、愛ではなかったとそのときに気づきました。
パパと会えない週末はとても寂しかったのです。彼は離婚して子どもがいましたが、離れて暮らしていたので会うことはありませんでした。彼は一緒にいて楽しいパートナーでした。私の好きなこと、川へ行ったり、お弁当持って出かけたりというシンプルなことが楽しかったです。一緒に食事に行ったり。彼は会話の中で、よく社会のことや日本の歴史、正しい日本語を教えてくれました。私はメモを取って彼の話を熱心に聞きました。
こんなに人生が楽しいとは思いませんでしたね。めっちゃめちゃ楽しいデートでした。

 

彼にとっては再婚になるので私と結婚すべきかどうか迷ったそうです。結婚するとき、一人だけ子どもをもうけようと決めて結婚しました。当時、私は彼を男らしいと感じていました。

指輪

 

▶︎File.2-8 まさか私が へ続く


<話を聞いてまとめた人>奈良雅美プロフィール写真
奈良雅美(なら・まさみ)
特定非営利活動法人アジア女性自立プロジェクト代表理事。関西学院大学非常勤講師。ときどきジャズシンガー。
小学生のころから「女の子/男の子らしさ」の社会的規範に違和感があり、先生や周りの大人に反発してきた。10代半ばのころ、男女雇用機会均等法が成立するなど、女性の人権問題について社会的に議論されるようになっていたが、自身としてはフェミニズムやジェンダー問題については敢えて顔を背けていた。高校時代に国際協力に関心をもち国際関係論の勉強を始め、神戸大学大学院で、環境、文化、人権の問題に取り組む中で、再びジェンダーについて考えるようになった。
 大学院修了後、2004年より特定非営利活動法人アジア女性自立プロジェクトの活動に参加。途上国の女性の就業支援、日本国内の外国人女性支援などに取り組む中で、日本に住むフィリピン女性たちに出会う。社会一般の彼女たちに対する一様なイメージと違い、日々の生活の中で悩んだり喜んだりと、それぞれ多様な「ライフ」を生きていると感じ、彼女たちの語りを聴き、残したいと思うようになる。移住女性や途上国の女性の人権の問題について、より多くの人に知って欲しいと考え、現在、ジェンダー問題、外国人や女性の人権などをテーマに全国で講演も行っている。