第8話 けいちゃん「私の仕事〜再び社会とつながる」2

サンパギータ 日本のフィリピン女性たち(奈良雅美)

サンパギータ 日本のフィリピン女性たち(奈良雅美)

 

<サンパギータFile.1> けいちゃんの場合

私の仕事〜再び社会とつながる(前回のつづき)

 

●実家への仕送りの問題

 

日本人と結婚しているフィリピン女性から耳にするさまざまな話の中で、よく問題になるのが仕送りです。彼女たちの中には、フィリピンの家族へ仕送りをするために働くという人が少なくありません。

なぜ仕送りするのかというと、いちばん大きな理由は日本との経済格差です。

フィリピンでは、働き口のある外国へ出稼ぎして家族を支えるのは特別なことではありません。フィリピンの平均年収は日本円でだいたい30万円くらいです。フィリピンの経済はこの20年で大きく成長をしてきていますが、まだまだ日本との格差は大きいです。

それに、家族との関係性が日本とはずいぶん違うことも影響していると思います。日本では「家族」というと、親と子ども、それに祖父母くらいまでだと思いますが、フィリピンでは、きょうだいの子どもや、日本の「遠い親戚」も含めてすべて「家族」という感覚です。だから家族の間で助け合ったり、お金を出し合ったりするのは当たり前のことと思われているのです。

そうすると、日本に住むフィリピン女性はお金を持っていると思われやすいので、定期的に仕送りを期待されることが多くなります。

ところが、フィリピン国内で結婚した場合は、実家に仕送りをすることは一般的ではありません。結婚して外国に住んでいるから毎月のように仕送りをしなくてはならないというのは、私にはどうも違和感があります。

たまの仕送りなら構わないと思うのですが、日本で暮らしているからといって、みんなお金持ちではありません。まずは自分の家族のことを優先すべきだと私は考えています。

きょうだいの子どもの学費まで支払うとか、親族が病気になったらその治療費を支払うなどということを聞いたりしますが、そこまで負担する必要はないのではと思います。

彼女たちは「外国に住んでいるのだから自分がそういった費用を支払わなければならない」と思い込んでいるのでしょう。
頻繁な仕送りは実家の家族を甘やかし、金銭的に依存させることになると思います。

 

実際のところ、私が受けるフィリピン女性からの相談には、こういったお金に絡む内容が多いのです。
「自分は働いているのに夫がお金をくれない」、「フィリピンの家族にお金が必要なのに欲しいと言っても日本人の夫はくれない」などと訴えてきます。
フィリピンの家族にも事情はあるでしょうが、夫にしてみれば毎回なぜそれほど送金しなければいけないのか疑問に思うのも当然でしょう。

自分たち日本の家族もお金は必要なのだから。

妻は、フィリピンの家族が困窮しており送金しなければいけないということを丁寧に説明できず、そこから喧嘩になることも多いようです。

これは私の心配しているフィリピンの女性たちが抱える問題の1つです。

 

▶︎第9話 けいちゃん「私の仕事〜再び社会とつながる」3 へ続く


<話を聞いてまとめた人>奈良雅美プロフィール写真
奈良雅美(なら・まさみ)
特定非営利活動法人アジア女性自立プロジェクト代表理事。関西学院大学非常勤講師。ときどきジャズシンガー。
小学生のころから「女の子/男の子らしさ」の社会的規範に違和感があり、先生や周りの大人に反発してきた。10代半ばのころ、男女雇用機会均等法が成立するなど、女性の人権問題について社会的に議論されるようになっていたが、自身としてはフェミニズムやジェンダー問題については敢えて顔を背けていた。高校時代に国際協力に関心をもち国際関係論の勉強を始め、神戸大学大学院で、環境、文化、人権の問題に取り組む中で、再びジェンダーについて考えるようになった。
 大学院修了後、2004年より特定非営利活動法人アジア女性自立プロジェクトの活動に参加。途上国の女性の就業支援、日本国内の外国人女性支援などに取り組む中で、日本に住むフィリピン女性たちに出会う。社会一般の彼女たちに対する一様なイメージと違い、日々の生活の中で悩んだり喜んだりと、それぞれ多様な「ライフ」を生きていると感じ、彼女たちの語りを聴き、残したいと思うようになる。移住女性や途上国の女性の人権の問題について、より多くの人に知って欲しいと考え、現在、ジェンダー問題、外国人や女性の人権などをテーマに全国で講演も行っている。